奥大山自然文化協議会 設立趣意書


 中国地方の最高峰である大山は標高 1709m を誇る名峰として「伯耆富士(ほうきふじ)」の別名で地域住民から親しまれ、新緑や紅葉、雪景色といった四季の彩りに加え、見る位置により、柔らかくまた険しくと様々な表情を楽しむことができます。こうした美しい自然環境は「日本の景観を代表すると共に、世界的にも誇りうる傑出した自然の風景である」と認められ、その一帯が「大山隠岐国立公園」の一部として指定されています。
 その大山の南麓に「奥大山」と呼ばれる一帯があります。大山とそれに連なる烏ヶ山(からすがせん)の南側に広がるブナやミズナラを中心とした西日本最大級の面積を誇る広葉樹林に包まれ、絶景の眺望点を数多く抱える標高700~900m一帯に広がる高原地帯です。この豊かな緑に恵まれた「奥大山」に降った雨や雪は地中へゆっくりと浸透し、広葉樹林がもたらした栄養価に富んだ土壌と火山活動が生んだ火砕流の地層によって濾過、洗練され、極上の天然水として「奥大山」の地中深く蓄えられています。
 この自然の恵みに導かれて「サントリー天然水奥大山ブナの森工場」をはじめとした「天然水」の製造拠点が設けられ、その品質の良さが広く知られるようになった結果、「奥大山」は「おいしい“水”を育む豊かな自然環境と、雄大な自然景観を背景として、周囲と調和した農村風景や美しい街並み景観に恵まれた地域」として評価をいただくようになりました。

 一方、終息の見えないコロナ禍の中で人々の生活様式は変化し、自然に包まれ、自然の中で時を過ごすことの価値が認められるようになりました。しかも、レクリエーションや気分転換のためのフィールドとしての認識から、「健康な心と体で幸せに生きたい」という人間の根源的な欲求を受け止めてくれる「価値ある空間」として自然環境の評価が高まりつつあります。美しい自然とおいしい水に恵まれた「奥大山」は、まさにこうした多くの人々の要請にこたえることのできる地域です。「サントリー天然水」のふるさとの一つである当地では、森の探検や水に触れる体験を通して水の大切さや水を育む自然の大切さを体験するプログラムが提供されています。また地元の江府町では、「奥大山」において、地球の歴史を知ることで、地球環境を守ることの大切さを実感し、自らを振り返り意識を深めて行動に移すためのプログラムの開設準備が進んでおり、「奥大山」は「環境教育」が実践され、展開する地域となりつつあります。
 こうした「知識の蓄積、学び」の要素に加え、広大な自然環境の中で行う演劇、公演、展示などの文化事業を観覧し、その運営や活動に参画することを通じて、従来の枠組みでは得ることのできなかった豊かな感性を育む活動の機会が提供できるのではないか。また「ナラ枯」によって多くの木々が失われた「ミズナラ」の育苗、植樹などをきっかけとした自然再生活動ムーブメントの展開など、豊かな感性を育む体験の機会も提供すべきではないか。従来行ってきた、知識を蓄えて自然環境に思いを致すことから更に一歩踏み出して、自然環境のもとで身も心も豊かになることのできる体験や活動を同時に提供し、「自然の中で健康な心と体で幸せに生きたい」という多くの人々の要請にこたえることが、「奥大山」の担うべき使命であり、今がその第一歩をしるすべき時期ではないのか、自問自答を重ねました。

 このたび、私たちは、環境省中国四国地方環境事務所大山隠岐国立公園管理事務所及び国立大学法人鳥取大学の支援のもとに「奥大山自然文化協議会」を設立し、奥大山の恵まれた自然環境の中で、幅広い世代の人々に向けて、これらの豊かな感性を育む活動や体験の機会を提供すべきであると決意しました。この協議会の活動を通じて、この地に「自然環境を想い、地球環境を学ぶ地域」としての新たな価値を創造し、全国にそして世界に発信していきたいと考えています。

令和5年6月22日
奥大山自然文化協議会
設立発起人  鳥取県江府町
江府町長  白石祐治